Good Morning

 流れていた。川も風も、草木も動物たちも、空も大地も、流れていた。

 少女はこの流れが好きだった。少女もまた、いや、少女だけが、流れていた。



 太陽が森の向こう側へと沈んで久しく、陽の光を失った空は、代わりに星たちを散蒔くことで夜を照らしていた。

 星明かりは、陽の光に比べると遥かに弱く、その光によって確認できるのは、夜の空も雲がゆっくりと漂っているということと、遠くに薄明かりの灯った街があること、そしてそのまた遠く、空と大地の境目に、黒々とした森があることくらいだ。

 辺りは静まりかえり、聞こえてくるのは、草原を撫でる風の音と、闇夜に溶け込むような虫の音。

 注意して耳を傾けなければ、気にも止めることができない、自然の音だけで満たされていた。静寂と言って何ら差し支えなかった。

 ふたりは、蒼が香る広大な草原にぽつりと座り、彼方に揺れる街の仄明かりをぼんやりと眺めていた。

「僕たちだけだったんだ」

 少年が静寂にひとつ声を零した。

「なにが?」

 暗闇のあるところから、少女の声が聞いた。

 互いの表情は伺う事ができない程暗いが、声のする場所から、ふたりが寄り添うようにして座っていることくらいは分かる。

 少年の声が応えた。

「僕たちだけだったんだよ。止まっていたのは。川も風も、草木も動物たちも、流れているんだ。この空や大地だってそう」

 薄明るくなってきた方の空を見つめながら、

「どうして気が付かなかったんだろう。こんなにも近くに答えがあったのに」

 しばらくの静寂。そして少女も白む空を見つめ、微笑みながら、

「そういうものなんじゃあないかなあ」

「え?」

 少し間の抜けた声の主が少女の方に目を向ける。

 少女も彼をちらりと見て、また空の方へ視線を戻す。

「答えに気付いてから、近くにそれがあったことに気付くものなんじゃあないかなあって」

「うん。それも、そうだね」

 少年は目を閉じ、一度だけ軽く頷きながら嬉しそうに返事をした。



 もうすぐ夜が明ける。



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.06 2014 雑記 comment3 trackback0
  

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